新医協は2023年6月13日にGX脱炭素電源法の可決に対する抗議声明を出しました。 (PDF版はこちらから)
[抗議声明]
GX脱炭素電源法の可決に抗議する
2023年6月13日
新医協(新日本医師協会)常任理事会
5月31日参議院において「GX脱炭素電源法」が可決成立した。この法律は原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理等拠出金法、再生可能エネルギー特別措置法を一本化して再編したものである。これに先立ち5月12日に成立した「GX
推進法」とともに、今喫緊の課題である地球温暖化対策の一つCO2削減を口実に、原子力発電への回帰を目指しているものである。新医協は以下の点からこの法の実施に反対し、その撤回を求める。
1) 核分裂のエネルギーを用いる原子力発電は生体に有害な放射線の発生は避けられず、実際、福島原発事故以前に原発作業員の白血病等のガン発症で10人が労災認定を受けてきた。また、福島第一原発事故による関連死認定者は2335人にのぼる。さらに、福島県内男女7人が国と東京電力に損害賠償を求めている「311子ども甲状腺がん裁判」も現に係争中である。我々新日本医師協会はこのように人の命を奪ってきて、未だに健康を脅かし続ける原子力発電は人類と相容れないものであり再稼働はおろか新たな建設を許すわけにはいかない。
2) 東京電力福島第一発電所の炉心溶融事故は、全く収束していない。いまだ多数の住民が居住地を追われ、生業を追われたままであり、それに対する補償は不十分である。また事故に対する原因の解明、その後の住民の退避、安全確保等につき総括されておらず、それぞれの責任があいまいにされたままである。またこのような状況下での原発再開および運転期限の延長は、ふたたび事故が起こった時に福島原発事故の再現が危惧される。点検、規制の法律化は今まで行われていたものを明文化しただけである。老朽化や損傷では直接炉内に入って点検することはできない。立地自治体の避難対策作成も、ほとんど実行困難なものである。
3) 原子力発電システムのもつ危険性について真摯に向き合っているとは思えない。事故を起こした原子炉の廃炉は手付かずで、環境汚染の回復は不十分である。今後発電の終了した原子炉の廃炉や、使用済み核燃料の処理について、現在の方策は仮定の域をでていない。「次世代革新炉」なども構想か実験の段階で、脱炭素電源とは到底いえない。またこれは発電システムの一つであるが建設、維持管理について電力会社の能力の範疇を超えている。国の責務を言うのであれば、原子力発電の維持の是非について国民に問い十分論議すべきで、わずか一ヶ月程度の国会審議で決めることではない。
4) GX推進法では今後150兆円の官民投資を謳っているが、その多くは原子力発電関連に向けられようとしている。しかしここ10年ほどでは原発発電コストは年々上昇している。今後廃炉や使用済み核燃料の廃棄処理などを考えれば、さらに上昇せざるをえない。原子力発電は危険で維持管理に莫大な費用がかかるだけでなく核燃料の最終処分場さえ目途が立っていない。一方再生可能エネルギーの発電コストは数分の一に下がってきている。これはその研究技術開発に注力してきたためであり、再生可能エネルギーの持つ様々な可能性こそこれから追求されるべき方向と思われる。
5) 以上のことから、この法律は国民の健康に脅威を与え誤った方向へ導き、次世代へ禍根を残すものとして、強く抗議する。