新医協は2022年12月17日に「9価HPVワクチンを定期接種化する予防接種実施規則の一部改正」に関するパブリックコメントを提出しました。(PDF版はこちらから)

[パブリックコメント]

新医協は以下の理由により
9価HPVワクチンを定期接種化する予防接種実施規則の一部を改正する省令案に反対する

 

1.9価HPVワクチン(以後9価ワクチン)の組成上の問題点
 9価ワクチンは、4価ワクチンの組成にさらに主成分として5種類のウイルス型のL1 たん白質ウイルス様粒子(VLP)が加えられており、VLPの総量は4価ワクチンの2.25倍に達する。HPVワクチンの抗原として使用される16型L1たん白質は、34個のヒトたん白質と同じアミノ酸配列(分子相同性)が確認されており、自己免疫性反応を起こすリスクが指摘されている。9価ワクチンには、この16型L1たん白質が4価ワクチンの1.5倍含まれている。また、免疫能を強力に高める薬理作用を持つアルミニウムアジュバントが4価ワクチンの2.25倍に増量されており、注射部位の炎症をはじめ、さまざまな副反応や自己免疫疾患を誘発するリスクがより高くなる。

2.定期接種化に関する議論のとりまとめでは、安全性に関して「4価と比較し接種部位の症状の発現は多いが、全身症状は同程度である」として9価ワクチンの安全性は問題ないと結論付けているが、4価ワクチンと同程度かそれ以上にリスクが高いとすべきである。
(1)2価および4価ワクチンでさえ、重篤な副反応報告の発生率は、他の定期接種ワクチンに比較して極めて高い(表1)。

 表1.医師が重篤と判断した副反応報告数の比較
 ワクチンの種類   発生率 100万回接種当たりの発生数
 サーバリックス      58.9
 ガーダシル        65.9
 ヒブワクチン       23.1
 小児用肺炎球菌ワクチン  28.2
 不活化ポリオワクチン     8.5
 4種混合ワクチン       23.0
 日本脳炎ワクチン     18.2
  データ:副反応検討部会(2013年5月25日)資料5より作成

 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(以後、副反応検討部会)にて示された2価および4価ワクチンの長期的安全性に関する代表的とされる臨床試験データ(HPV-010試験)においても、重篤な有害事象の発生率は各々4.2%、4.0%を示し、自己免疫疾患の発生率も1.1%、1.8%と高率である(2013年12月25日第5回副反応検討部会資料10「2製剤の比較試験の結果」より)。厚労省の資料自身が本剤の接種により他のワクチンでは考えられない高率な重篤有害事象や自己免疫疾患が発症していることを明示している。しかもこのデータは製薬企業自らの提出資料である。
(2)9価ワクチンの筋肉内注射によって起こる局所の重篤な発赤や腫脹の発生頻度は4価ワクチンより高く、全身症状である頭痛・発熱・嘔気・眩暈・倦怠感の頻度も上昇している。このことは、上記の組成上の問題点で述べた通り、アジュバントとして4価ワクチンの2.25倍のアルミニウムヒドロキシホスフェイトが使用されていることが関係している。
 定期接種化に関するとりまとめでは「4価ワクチンと比較して注射部位の症状や頭痛、めまい、疲労感、発熱等の発現率が高いが、全身症状及び自己免疫疾患の発生率は4価ワクチンと同等であった」として、安全性上の問題はないとしている。
 製薬企業自身が2価および4価ワクチンによる4%という重篤な有害事象頻度を認めておりながら、そのような4価ワクチンを対照にして9価ワクチンの全身の副反応等は増加していないから安全性に問題ないと主張すること自体、安全性立証の基本を回避している。本来なら対照群に生理食塩水を用いるのが至当である。またその是非を検討する副反応検討部会がこの事実に全く触れていないことは、ワクチンの安全性に責任を果たすべき任務を放棄しているものと言わざるを得ない。

3.9価ワクチンの有効性に関する疑問
(1)定期接種化の目的は「子宮頸がん及びその前がん病変の罹患率の減少、子宮頸がんの死亡率の減少が期待される」としているが、臨床試験における有効性の評価は、抗体価の変化や前がん病変に関する評価であり、子宮頸がんそのものの予防効果は証明されていない。   
抗体価の数値を感染予防効果の指標とすることについては、HPVの自然感染では抗体価の上昇はほとんど認められず、ファクトシートでも、「子宮頸部粘液中に血清IgG が滲出することで感染防御されると考えられるが、HPV 感染阻害に必要な血中の抗 HPV 抗体価については不明である」と述べているように、ウイルス感染予防効果と抗体価の関係性は明らかにされていない。
(2)議論のとりまとめでは有効性について「9価HPVワクチンは4価と比較して4価に含まれる遺伝子型に対する免疫原性は非劣性で、4価でカバーできないハイリスクの遺伝子型に対しても有効であった」と評価しているが、ワクチンに含まれないウイルス型の感染増大の危険性については何ら触れていない。   
 表2は、9価ワクチンファクトシート(国立感染研究所2021年1月31日)に示された欧米におけるワクチン導入前に対する導入後の感染に関する相対危険度を示す。ワクチンに含まれない高リスク型ウイルスの感染が、いずれの年代でも導入後に増大していることを示している。この結果は、ワクチン接種により、ワクチンに含まれない高リスク型ウイルスの感染による子宮頸がんを誘発する危険性を示している。しかし、ファクトシートではこの結果について何らコメントしておらず、定期接種化の検討においても問題にしていない。

 表2.ワクチンに含まれない高リスク型HPV感染の相対危険度
 ワクチン導入後1-4年   ワクチン導入後5-8年
 13-19歳女性  1.13(0.00-1.29)    1.12(0.82-1.53)
 20-24歳女性  1.11(1.00-1.24)    1.16(0.93-1.46)
 25-29歳女性  1.00(0.92-1.10)    1.17(0.80-1.72)

4.HPVワクチン接種後に生じた副反応被害に対する救済は限定的な実施にとどまっている
 ワクチン接種後に生じた副反応被害に対して、「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」(予防接種後健康被害救済制度)に則って、速やかに救済に係る審査を実施するとしている。しかし、2021年11月時点で、予防接種法に基づく救済では57人中、30人を認定、医薬品健康被害救済(PMDA法)では526人中、317人を認定したと報告されているが、認定率は60%にとどまり、残る40%の被害者は救済を受けられていない。しかも補償は健康保険適用の医療費に限定され、通院費はおろか、進学できない、仕事に付けないなどの逸失利益への補償もない。つまり、国民の健康に寄与するとして国が認可したワクチンを、国の責任のもとに接種したことにより発生した重篤な副反応を被害者に受容させ、国民の健康に生きる権利を奪うものである。長南らはHPVワクチンによる健康被害に対する救済認定率(44.5%)は、通常の医薬品による被害救済の認定率(83.8%)に比べても有意に低いことを明らかにしている。
 このような実態でありながら、「HPVワクチン接種後に生じた症状に苦しんでいる方に寄り添った支援を整備している」として積極的接種勧奨の再開へ舵を切ったことについて、HPVワクチン被害者は、「積極的勧奨という決断は、多くの若い子達の人生を壊すということがわかっているのかと問いたい」と訴えている。9価ワクチンの定期接種化にも同様のことが言える。

5.「多様な症状」を呈する患者に対応する協力医療機関の現状では寄り添った支援とは言えない
 積極的接種勧奨の再開における寄り添った支援を整えたとして説明しているもう一方の理由が、協力医療機関(47都道府県、84医療機関)の整備である。国は予防接種後に広範な疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状を呈する患者に対して、より身近な地域において適切な診療を提供するため、都道府県単位で協力医療機関を選定し、診療体制の整備・充実を図って被害者に寄り添っていると説明している。
 しかし、その実態について、2014年11月22日から2017年3月までに協力医療機関を715人が受診したが、2021年11月時点で、多くの協力医療機関で過去2年半の受診者数が0人であったことを公表している(2021年11月12日副反応検討部会)。決して副反応被害者がゼロになったわけではなく、協力医療機関での不適切な対応(詐病扱いやたらいまわしにされる、認知行動療法では改善しない等)により医療機関への信頼を全く無くした結果である。
 重篤な副反応被害を受けた多くの患者は、進学や就職もままならず、今なお症状に苦しみ続けているという事実がありながら、副反応検討部会では、未回復の「慢性疼痛を伴う重篤で多様な副反応症状」は「痛みや薬液による心身の機能性身体障害」であり、その治療法として「認知行動療法」の推奨が固定化され、その後の副反応症状の原因究明や治療法の研究は棚上げになってしまった。このような立場からは、副反応被害者への寄り添った支援は今後も望めない。このような現状の中で、9価ワクチンをも定期接種化するとなれば、ふたたび、このような副反応症状に苦しむ被害者を増やすことになる。

6.9価ワクチンの定期接種化ではなく、「重層的に現れる多様な症状」を自己免疫系障害と捉える立場からの研究成果に学び、真の原因究明や病態、治療法の研究へ舵を切るべきである。
 HPVワクチンの接種後に発症した、全身の激しい疼痛や倦怠感、運動系障害をはじめ、高次機能障害、自律神経・内分泌系に及ぶ多様で重層的な副反応症状は被害者に共通しており、これらの病態に対して、近年、ワクチン接種による自己免疫系障害ととらえる立場からの診療研究が進み、免疫学的診断と治療により軽快する事例も報告されている。
 副反応検討部会では、これらの研究論文を全く取り上げる姿勢をみせず、「多様な症状」は非接種者でも同様に発生しているという疫学調査結果のゆがんだ解釈や、自己免疫疾患の発生は統計的に有意でないとする疫学調査結果に固執し、現実に苦しんでいる被害者の実態に目を向けようとしない。このような姿勢からは、原因究明や病態、治療法の研究への見通しは全く持てない。
このような厚労省のもとでは、よりリスクの高い9価ワクチンの定期接種化は、重篤な副反応被害に苦しむ新たな患者が増加することにつながる。
 以上より、新医協は9価ワクチンを定期接種とする予防接種実施規則の一部を改正する省令案に強く反対する。